10301「マクリーン事件のお話/人権の享有主体性に関する判例」行政書士試験の憲法

 憲法チェック
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行政書士試験の過去問題から憲法「人権の享有主体性に関する判例」の重要問題をピックアップしています。重要ポイントとしてチェックしてください。
過去問題を見る限りでは、あまり理屈を深く掘り下げた問題はないようです。判例のポイントをまずは覚えてください。

インターネットでの裁判所の判例検索を利用しています。試験の問題に慣れるという意味からも文章は判例集の文章をほぼそのまま使いながらも、文節を分ける、できるだけ短文にする、を心掛けています。

「マクリーン事件のお話」(在留期間更新不許可処分取消請求事件)

このお話は昭和44年から45年にかけてのものである。

アメリカ人である彼は、昭和44年5月10日在留期間を1年とする上陸許可を得て日本に上陸した。

そして、1年が過ぎようとしていた昭和45年5月1日に1年間の在留期間の更新を申請した。

ところが、昭和45年8月10日に「出国準備期間として昭和45年5月10日~9月7日までの120日間の在留期間更新を許可する。」との通知を受けた。

そこで、彼は、昭和45年8月27日に昭和45年9月8日から1年間の在留期間の更新を申請した。

しかし、法務大臣から、昭和45年9月5日付けで「更新を適当と認めるに足りる相当な理由がある」「ものとはいえない」として更新を許可しないとの通知を受けた。

法務大臣の裁量的判断

その理由は、彼の在留期間中の「無届転職」と「政治活動」に原因があった。

彼は、語学学校に英語教師として雇用されるための在留資格を認められたのに、わずか17日間でその学校を退職し、ある財団法人に英語教師として就職し、入国を認められた学校における英語教育に従事しなかった。

また、彼は、外国人ベ平連(アメリカのベトナム戦争介入反対、日米安保条約によるアメリカの極東政策への加担反対、在日外国人の政治活動を抑圧する出入国管理法案反対の三つの目的のために結成された団体)に所属し、昭和44年6月から12月までの間に9回にわたりその定例集会に参加していた。

さらに、昭和44年7月から昭和45年7月までの間には、べ平連の活動目的に沿ったさまざまな集会に参加し、集団示威行進等の政治活動を行っていた。

ただ、彼が参加した集会、集団示威行進等は、いずれも、平和的かつ合法的行動の域を出ていないものであり、彼の参加の態様は、指導的または積極的なものではなかった。

これらの事実により、彼の在留期間更新申請に対し法務大臣が「更新を適当と認めるに足りる相当な理由がある」ものとは「いえない」として許可しなかつたのは、彼の在留期間中の「無届転職」と「政治活動」のゆえであつたというものであり、なかでも政治活動が重視されたものである。

最高裁判所の判断

外国人の基本的人権の保障

憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである。

外国人の政治活動の自由

【政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。】

外国人の在留を要求する権利は保障されていない

しかしながら、外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではない。

ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により「更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」と判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものである。

外国人の基本的人権は在留制度の枠内で与えられているにすぎない

したがつて、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であつて、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情として斟酌(しんしゃく)されないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。

在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとつて好ましいものとはいえないと評価し、また、その行為から将来その外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、その行為が憲法の保障を受けるものであるからといってなんら妨げられるものではない。

彼が行った在留期間中のいわゆる政治活動は、その行動の態様などからみて直ちに憲法の保障が及ばない政治活動であるとはいえない。

しかしながら、彼のその活動のなかには、わが国の出入国管理政策に対する非難行動、あるいはアメリカ合衆国の極東政策ひいては日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に対する抗議行動のようにわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものも含まれていた。

法務大臣が、当時の内外の情勢に鑑み、かれのその活動を日本国にとつて好ましいものではないと評価し、また、彼のその活動から彼を将来日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者と認めて、在留期間の「更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」ものとは「いえない」と判断した。

行政庁の裁量処分は、裁量権の範囲を超え又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

その法務大臣のした判断につき、事実の評価が明白に合理性を欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえず、他に法務大臣の判断につき裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたことをうかがわせるに足りる事情の存在が確定されていない状況のもと、法務大臣の処分を違法であると判断することはできないものといわなければならない。

また、法務大臣が彼の政治活動を斟酌して在留期間の「更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」ものとは「いえない」とし不許可処分をしたことによって、なんら違憲の問題は生じないというべきである。

よつて、最高裁判所は、彼の訴えは棄却したのである。(最高裁判所大法廷判決昭和53年10月4日在留期間更新不許可処分取消)

行政書士試験の出題例

(問題文)わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼすなど、外国人の地位に照らして認めるのが相当でないと解されるものを除き、外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶ。(○)

参考条文

憲法第三章 国民の権利及び義務(10条~40条)

特に

(思想及び良心の自由)
憲法19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

(集会・結社・表現の自由、通信の秘密)
憲法21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(居住・移転及び職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由)
憲法22条1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

出入国管理令(現在の出入国管理及び難民認定法)
(在留期間の更新)
21条1項 本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受けることができる。
2項 前項の規定により在留期間の更新を受けようとする外国人は、外務省令で定める手続により、長官に対し在留期間の更新を申請しなければならない。
3項 前項の申請があつた場合には、長官は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。

出入国管理及び難民認定法
(在留期間の更新)
21条1項 本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受けることができる。
2項 前項の規定により在留期間の更新を受けようとする外国人は、法務省令で定める手続により、法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならない。
3項 前項の規定による申請があつた場合には、法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。

行政事件訴訟法
(裁量処分の取消し)
30条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

参考判決は、HP裁判所→裁判例検索→個別判例集の中の全文を参考にしました。


【白神英雄/行政書士・】

参考文献・引用:「憲法学読本」第3版安西文雄他著(有斐閣)・法律学小辞典第5版(有斐閣)・判例六法(有斐閣)/過去問題

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